呼吸法から小周天の遣り方までを紹介します。
呼吸法
〈武息又は武火呼吸〉
① 先ず舌先を上歯のやや上の天池穴にぴったり付け、唾液が生じるのを促します(唾液で精を補う)。息をスッスッと切れ切れに鼻から吸いつつ、徐々に下腹を膨らませ、肛門を締め上げて行きます。同時に意識で、吸った息が下腹へ次々に降りて行くと想像します。
② 十分(多少、余裕があった方が良い)息を吸い切ったら、下腹を膨らまし、肛門を締め上げたまま息を止めます。意識を下腹に集中します。
③ 暫く息を止めた後、鼻からハッハッと切れ切れに強く吐きながら、下腹を凹まして行き、同時に肛門を緩めて行きます。意識は、相変わらず下腹にかけたままにしておく事。
④ この吸気・停気・吐気は、始めの内、5・5・5の比率で行ない、慣れてきたら、10・15・10位の比率にして行き、最終的には、15・30・10位にして行くと良いです。慣れない内は、下腹部より上腹部に力がかかり易く、この為肩が凝ったり背中が痛んだりしますので、肩を落とし、腕の力を抜き、それぞれの手の平を上腹部と下腹部に置き、武息の時、下腹の方により力が入っているか確かめつつ修行を行なうと良い。
〈文息又は文火呼吸〉
① 全く意識を使わない呼吸で、下腹の緊張も肛門の括約筋の締め上げも行いません。只、静かに吸う、吐くを繰り返すだけです。下腹は、吸う、吐くに伴って前後に軽く動くが、殆ど緊張が無く、意識を全くかけずに腹式呼吸をしなければなりませんので、武息よりも難しいです。文息とは、瞑想の段階がうんと深くなった時に出てくる腹式呼吸で、長くゆったりとし、完全に体がリラックスしている時にしか出ない特殊な呼吸です。先ずは、半文息で練習すると良いでしょう。
〈半文息〉
① 〈調息〉とも言います。割に易しい呼吸法で、只、息をゆっくり長く鼻から吸い込み、下腹を徐々に膨らませて行きます。十分吸い切ったら、今度は口又は鼻から、ゆっくり長く息を吐いて行きます。勿論、吐きながら下腹を凹まして行きます。半文息では、多少、下腹の緊張を伴わせますが、武息程強くなくても良いです。吸短・吐長で遣っても良いですが、吸・吐共同じ長さの方が早く文息に持って行き易い。武息の補助に使いたい人は、下腹の緊張以外に、肛門の締め上げを併用する事。武息が上手く行かない人は、半文息で一週間ばかり練習すると、割合楽に武息に入れる様になります。
煉精化気
① 始めに一回、下腹を凹ませながら長く吐き切れるだけ息を吐く。次いで軽く吸い、又腹を凹ませながら吐き切れるだけ息を吐く。最低これを3~5回行ないます。肺に溜まっている濁った空気を出し切ってしまいます。
② 次に半文息を2~5分(慣れない内は10~15分)行ないます。
③ 最後は武息に入ります。息を吸う時切れ切れに鼻から吸いますが、それぞれの吸気に、下腹を膨らませる動作を合わせる事。下腹が先に膨らんでいるのに、まだ吸気が続いていたり、吸気が終わっているのに下腹の膨らみが終わっていないのはまずい。肛門に関しては、短く切った吸気に合わせるのが難しいので、どうしても出来なければ、吸気が全部済む前に先に締め上げを終えてを良いですが、息を吐く時まで、決して緩めない様にする事。
④ 武息を続けていて、途中で疲れて、下腹や肛門に締まりが無くなったり息が乱れて来ると、そこで半文息に切り替えて、3~5分息を調整し、又武息に戻すといった事をすると良い。
⑤ 一回の修行時間は、最低、一日1時間以上が良い。忙しくて一日30分しか出来ない様なら、休日にまとめて3~4時間遣ると良い。
⑥ 修行が終わったら、先ず武息を止め、半文息を3~5分行ないます。それから肩や首をぐるぐる回したり、組んでいた手や足を軽く揉み解します。なるべく呼吸を止めた瞬間にガバッと立ち上らない様にします。
⑦ 文息だけで修行を行なう人は、始めから半文息を行ない、1時間以上休み無く続けます。
陽気の発生
① 武息により、陽気が集まってくると、下腹がとても熱くなります。人によって感じ方はさまざまで、ある人は焼けるように熱いというし、ある人は、なんとなく暖かいだけだといいます。しかし、どちらにせよ、これだけではまだ不十分で、更に吸う息を多く、止める息を長くして、丹田に強く意識をかけます。こうすると、やがて圧力のようなものがかかり、振動が起こってきます。人によってはビンビンと響くような感じだし、鍋でグツグツ、物を煮ているような感じがする場合もあります。とにかく丹田から、あふれて胸の方へ突き上げたり、下の方へ向かって流れてきたりします。肛門を閉める時、何かを吸い上げるような要領で行なうことです。こうすると陽気が丹田に戻ってくるか、尾閭(尾骨にあるツボ)の所まで流れます。
② 精力を強くするだけが目的の人は、この段階でやめても構いません。精の漏れるのを防ぐ為、意志の強い人を除いて、固精法を行ないます。
小周天
① 尾閭の開竅……陽気が尾閭まで流れた人は、一応、第一段階はパスで、まだ、ここまでいかない人は、意識で会陰へ引っ張ってきます。必ず肛門を閉め、上・下の歯をかみ合わせ、舌を上顎(天池穴)に付けること。こうしておいてから、尾閭へ意識を集中させます。陽気がここにくる時、熱い湯のようなものが細い管の中を通っていく感じがします。しないのは、陽気がまだ力不足か、意識のかけ方が弱いので、更に丹田で陽気を発生させなければなりません。さて尾閭に意識をかけ、武息を行なっていると、ここに振動が起きます。これは、ふさがっていた竅(関門)が開いたもので、この熱い気は腰の所にある命門か、もう少し上の夾脊という竅に流れていきます。ちょうど毛細管現象で湯が細い管の中を上がっていく感じです。ここが第二の関門で陽気が弱い人は、これ以上、上がらなくなります。そこで、ここと丹田の両方に意識をかけ、吸気二十・停気三十・呼気十の割合の武息を行ない、下腹に力を入れます。振動が起こったらここも抜けた証拠です。人によっては振動がないまま、陽気がここを抜けることがあります。こうゆう人はまだよく竅がふさがっていなかったのです。どちらにしても、ここが通じると背骨の上の皮膚部分が一直線に熱く感じられます。背中全体がポカポカして、冬、野外のベンチに寝ても冷たくなくなります。陽気の足りない人は、やや暖かいぐらいの感じですが、背骨の上に細い管があって、その中を液体が通る感じだけは共通しています。
② 頭頂開竅……次に陽気は、首の後ろの凹んだ部分にある玉沈という竅(針灸の亜門のツボ)でつっかえる事が多く、ここは丹田から遠いので、健康な人でも陽気が弱くなり、やや通りにくい。人によっては、ここだけで通るのに一ヶ月くらいかかる事もあります。ともかく要領は、前と同じで、一所懸命、武息をかけていると急に陽気が通ります。この時、振動のある人もない人もありますが、頭頂の下にある泥丸という所に入るので後頭部が熱く感じられます。人によっては、ガーンとくるかも知れません。でも一つ一つ関門が開いてきた人の場合、泥丸に入ってもそんなにひどい感覚はありません。ところが、若い人や精力の余っている人の場合はそうはいきません。尾閭から泥丸まで陽気が一息に上がっていきます。ゴーと音がして、何か火柱のようなものが背骨を突き抜け、ドカーンという感じで泥丸に入ります。目の前がピカッと光り、目が眩んだりします。人によっては失神することもあります。こう書くと、恐ろしくなって小周天なんかできるかいという人が出てくるかも知れませんがそれ程心配する必要はありません。暫くするとその陽気は落ちついていきます。
③ 陽気を上げる際の注意点……むしろこうゆう人より、一番危険なのは、早く陽気を上げようとあせる人です。意識が安定していないから、呼吸が乱れます。この手の人の陽気が一発で上がると、その熱で頭がやられます。陽気の足りない人も、無理に上げるといいことはありません。邪気や虚火(体内に溜まっている病的な熱)が上がって、頭が膨れる感じがしたり、慢性頭痛になったりします。天丹法を行なう場合、どんなことがあっても意識と陽気を並行させて上げていくようにすることです。
④ 文息への切り替え……泥丸まで陽気が上がったら、武息をやめて文息に切かえて、泥丸にゆるい意識をかけます。これを温養といいます。温養を暫くやっていると熱い気は、涼しい気に変わります。スカスカして、ちょうど頭にハッカでも入れたような感じです。頭が冴えてきて、記憶力がよくなります。仙道では、ここまでの段階を進陽火といいます。陽気が督脈に完全に通った段階です。
⑤ 陽気の質を変える……次に、この涼しい感じに変わった陽気を額の所から任脈に通し丹田に向けて降ろしていきます。吸う息を短く、吐く息を長くします。吸気十・停気十・呼気二十ぐらいの武息が良い。もしなかなか降りないようだったら、停気を抜いて、吸気・呼気だけにしたら良い。
⑥ 退陰符(陽気の下降)……この陽気は、先ず眉の間にある印堂という竅にひっかかります。この時の陽気の流れは、モゾモゾして蟻でも這うような感じがします。ここが抜けると、 だん中の所までスカーッとした陽気が流れていきますが、力が弱いと、顎か咽喉の所で止まってしまいます。これは陽気が不足してますから丹田に意識をかけて、もっと陽気を発生させます。 だん中まできたら、ここでも暫く温養します。あとは黄庭という竅を通過させれば、丹田に陽気は戻ります。丹田に戻ると、陽気はもとの熱い気に変わります。この段階を退陰符といいます。そして、進陽火・退陰符を合わせ小周天といいます。陽気が体を一周した状態です。又気を回すことを、河車を回すともいいます。
日々の小周天の遣り方
① 先ず自分に合った座り方で座ります。姿勢をピシッとする事は、今迄と同じです。
② 次いで、息を2~3度吐き、汚れた空気を肺から絞り出します。
③ 半文息を3~5分遣ってから、吸・吐同じ長さの武息を行ない、陽気を発生させます。
④ 陽気が発生したら、吸長・吐短の武息を使い、会陰、尾骨と陽気を流し、背骨の上に通し、命門(或いは夾脊)の所迄送ります。
⑤ 命門(或いは夾脊)の所が熱くなったら、ここで陽気を止め、文息に切り替え5分程温養します。
⑥ 命門(或いは夾脊)での温養が終わったら、再び吸長・吐短の武息で、陽気を玉沈、頭頂と持って来ます。
⑦ 頭頂迄陽気が来たら、頭頂下2センチの泥丸に入れ、ここで文息により10~15分、温養します。
⑧ 泥丸での温養が終わったら、今度は吸短・吐長の武息で、印堂、鼻、舌、喉と陽気を降ろして来て だん中迄導きます。
⑨ だん中で文息に切り替え、5分程温養します。
⑩ 最後に、吸短・吐長の武息で陽気を臍下丹田に戻し、ここでまた文息に切り替え、10~15分程温養し、小周天を終えます。
⑪ 小周天が終わったら、直ぐに立たない事。これは、急に動くと、今、閉じ込めたばかりの陽気が、又動き出すからです。2~3分程半文息をし、首や肩を回し、手、足を良く揉んで、叩歯等をしてから立ち上ります。